K君

 K君は怒つてゐた。何に怒つてゐるかと言ふに、特段何にも怒つてゐないのである。
「だつて君、最終日だよ」
「何の最終日なのだ」
「だつて君、最終日じやないか」
 一事が万事その調子で、さう言つてまたぷりぷりと怒り出すのである。
 平生が曖昧模糊たる私のその薄ら馬鹿の樣なところも気に食はないのか、矛先が私に向くこともある。
「君は普段からさうして君子然としてゐるけれど、もつと怒らねばならないぜ」
「怒らねばならないかね」
「さうだ。怒らねばならない。特に、今日の樣な最終日には」
 さうしてまた最終日、最終日が始まり、彼がどれだけ最終日に怒つてゐるかの演説が始まる。到頭私は言つた。
「まあ、さう怒ることもないじやないか。怒つてゐたつて何にもならない、君の将来のためにもならないよ」
 少しは效果があつたと見えてK君は默り込んだ。
 しかしいつまでもいつまでも默つてゐるので、どうしたのか聞いてみると、やはりまだ怒つてゐる樣だつた。
「僕は君に怒つてゐるのだ」
 ラヂオが巨大隕石の到着を告げた。 




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